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熊本地方裁判所 昭和60年(ワ)101号 判決 1985年9月05日

原告

戸田秀雄

被告

株式会社駅レンタカー九州

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

被告は原告に対し二八万九八八〇円およびこれに対する昭和五九年一二月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第三請求原因

一  原告は、昭和五九年七月一七日午後〇時〇五分ころ、原告所有の普通乗用自動車(熊三三め二九〇、以下「本件自動車」という。)を被告管理の熊本駅自動車整理場(以下、便宜「本件駐車場」という。)に駐車した。

ところが、本件自動車は、同日午後二時頃までの間に何者かに接触事故をおこされ、左フロントドア、左リアドア等を損傷した。

その結果、原告は、その修理費用二八万九八八〇円の損害を受けた。

二  ところで、被告はいわゆる有償受寄者たる商人としての善良なる管理者の注意義務を負つているので(民法六五九条、四〇〇条、商法五九三条)、右損害を賠償すべき責任がある(大阪地判昭和四二年九月二六日判例タイムズ二一四号二二八頁参照)。

三  よつて、原告は被告に対し、有償寄託契約にもとづく損害賠償として二八万九八八〇円およびこれに対する本訴状の被告送達日の翌日(昭和五九年一二月五日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四請求原因に対する認否

請求原因一の事実中、損害の点は不知、その余は認め、同二の事実は否認する。

第五被告の主張

一  本件駐車場とそこにおける自動車整理業務について

1  被告が営業している熊本駅自動車整理場即ち本件駐車場の概略は、別紙1記載のとおりである。収容台数は一〇七台でペイントで駐車スペースが表示されているのみであり、入口、出口の外は鉄柵がなされており車の出入はできない。また、入口と出口に係員詰所を設け、各一名ずつ配置している。

2  本件駐車場の利用者は、入口から入場し、入口で詰所にいる係員から甲、乙両片の二枚一組綴りになつている整理票(別紙2の1の1、2の1の2、2の2参照。この際入場時間がパンチされる)を受取り、適宜空いた駐車スペースに駐車することになつている。自動車の鍵は利用者が保管し、被告係員が預かることはない。出場の時は、出口詰所にいる係員に整理票を渡し、所定の料金を支払い整理票のうち甲片(別紙2の1の1、2の1の2参照)を受取つて出場することになつている。

本件駐車場の営業時間は午前八時から午後一〇時までであり、午後一〇時以降翌日午前八時までは開放している。料金は、入場してから二〇分間までは無料で、無料の二〇分間を含み一時間までは一〇〇円、一時間をこえ二時間までは三〇〇円、二時間をこえるときは一時間を増すごとに一〇〇円となつている。

3  右のような被告の自動車整理業務は、利用者に駐車スペースを無料あるいは所定の料金で提供するにすぎないものであり、これをこえて鍵を預かるなどして自動車の保管までするものではない。このことは、被告が、利用者に入場の際交付する整理票のうち甲片の裏面(別紙2の1の2参照)に『当整理場において盗難、その他の事故により、自動車その他の物件に損害を生じた場合、賠償の責任は負いません。』と記載して明示しているところでもある。

4  本件において、原告は昭和五九年七月一七日午後〇時すぎごろ入場し、整理票を受取つて本件駐車場の空いた駐車スペースに駐車させ、鍵は自ら所持していたものである。

二  以上のとおり、被告は、本件駐車場における駐車整理の業務を行つているが、これは本件駐車場を利用する人に駐車スペースを提供するにすぎないもの(土地の賃貸借に類似する)であり、利用者の自動車の保管までするものではないから、寄託契約が成立し被告に自動車の保管義務があるとする原告の本訴請求は失当である(鳥取地方裁判所昭和四八年一二月二一日判決判例時報七三八号九八頁、高知地方裁判所昭和五一年四月一二日判決判例時報八三一号九六頁参照)。

第六被告の主張に対する認否及び主張

一1  同一の1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3については争う。

被告の自動車整理業務は、単に利用者に駐車スペースを提供するものではなく、後記のように原告等の利用者から自動車の保管をまかされているものである。確かに整理票甲片の裏面(別紙2の1の2参照)には、賠償の責任は負わない旨の記載があるが、この記載があるからといつて被告が免責されるものではない。また、原告もそうであつたが、通常の利用者は右整理票の裏面まで確認して自動車を預けることはないのであり、右記載により被告が免責されるものではない。

かえつて、本件駐車場の入口に掲示してある掲示板には、本件事故当時右記載と同旨の文言は、記載されていなかつたのに、本件事故後被告において、右掲示板に右記載と同旨の文言を記載したのであるから、本件事故当時原告において被告の免責を了承して本件自動車を駐車させたとはいえない。

4  同4の事実は認める。

二  同二は争う。

寄託契約とは、受寄者が寄託者のために物を保管することを約してこれを受取ることによつて成立する契約であり、右物の保管とは、受寄者が物を自己の支配内において、その滅失・毀損を防いで原状を維持することをいうところ、本件駐車場に駐車した本件自動車が寄託品にあたるか否かは、本件自動車の占有が管理者たる被告にあるか否か、すなわち、本件自動車の出入りが被告によつてチエツクされるか否かによつて決せられる。

ところで、前記のとおり、被告において、本件駐車場の出入口に係員詰所を設け一名ずつ係員を配置し、出入口以外は鉄柵により自動車の出入りができない構造であるから、本件自動車は、被告によつて、その出入りがチエツクされており、一旦入場駐車した本件自動車の占有は、被告にあるというべきであり、原告が本件自動車を本件駐車場に入場駐車したことにより、原・被告間に寄託契約が成立したと解される。

第七証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因一中損害の点を除く事実及び被告の主張一の1、2及び4の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件訴訟の主争点の一つは、本件駐車場に本件自動車を駐車させる旨の合意が、原告主張のとおり寄託契約に当るのか否か(駐車場の賃貸借契約類似の契約に当るのか)にある。よつて、以下検討する。

三1  寄託契約とは、「受寄者が寄託者のために物を保管することを約してこれを受取ることによつて成立する契約であり、右物の保管とは、受寄者が物を自己の支配内において、その滅失・毀損を防いで原状を維持することをいうところ、本件駐車場に駐車した本件自動車が寄託品にあたるか否かは、本件自動車の占有が管理者たる被告にあるか否か」にあることは原告主張のとおりであるが、その判断に当つては、原告主張のとおり「本件自動車の出入りが被告によつてチエツクされるか否かによつて決せられる」と解する説もありえよう(注釈民法(17)、四四八頁参照)が、それは狭きにすぎ、それを含めて、本件駐車場の構造、利用方法、利用者に見うる契約内容の文言(掲示板や利用に際して授受される書類の内容)、料金体系、駐車中の車の鍵の保管等、当事者の意思内容や駐車場の管理実態を総合考慮するのが相当である(例えば、現代契約法体系第3巻二六〇頁)。

2  本件についてこれをみるに、被告の主張一の1、2及び4の事実は当事者間に争いがなく、同3中「被告が、利用者に入場の際交付する整理票のうち甲片の裏面(別紙2の1の2参照)に『当整理場において盗難、その他の事故により、自動車その他の物件に損害を生じた場合、賠償の責任は負いません。』(以下「損害不担保文言」という。)と記載して明示している」ことも当事者間に争いがない。

そして、証人山木政春の証言によれば、被告の営業目的は駅前における自動車整理業及び自動車賃貸業であること、本件駐車場は国鉄から、主として国鉄熊本駅を利用する車の駐車場用に賃借していること、本件駐車場に「駐車場」とではなく、「整理場」と名付けているのも、駅前広場が一般の駐車場とは違つて公共的使命をも持つているので、利用者の便をはかり、駅前の交通秩序を維持する目的があること、従つて、料金体系の決定や改訂にも駅側の了解をとりつけており、料金も営業時間内の二〇分間内は無料にし、営業時間外は係員もおかず、無料で開放していること、本件駐車場の利用者に関しても、氏名や車の確認等は一切していなく、本件駐車場入口にいる一名の係員も、掲示板の記載に従つて、大型車等駐車スペースを広くとる車とか、他の車に支障をきたすような場合に駐車を遠慮願うことはあるものの、主として入車の際の二枚一組の整理票(別紙2の1の1、2の2参照)への入車時刻のパンチ打ち作業に従事し、出口にいる一名の係員も主として整理票を確認して、領収書を兼ねた右整理票への出車時刻と整理料金へのパンチ打ち作業と甲片(別紙2の1の1)の利用者への交付と乙片(別紙2の2)及び料金の徴収に従事する外は、右二名の係員は車を乱暴に駐車しているときに白線内にきちんと駐車する旨の依頼文書をワイパアにはさんで入れたり、本件駐車場内の汚物や空き缶等を拾つて回る程度で、これ以上に、駐車中の車を見回つて管理する時間的余裕もないことが認められる。

3  以上の事実によれば、本件駐車場は国鉄熊本駅を利用する多数の車のために、一〇七台という比較的多数の駐車スペースが設けられ、出入口以外は鉄柵のために車の自由な出入りはできないものの、人間は本件駐車場西側にある通路を利用して自由に出入りできること(別紙1参照)、駅の利用客が減る午後一〇時以降翌朝八時までは、係員もおらず料金も無料であり、営業時間中も、回転を速くして駅利用者の多数が本件駐車場を利用できるように慮つて、二〇分間内の駐車時間は無料にする恩典を設けていること、営業時間中の車の出入りが利用者において自由ではなく、本件駐車場の出入口の各係員にチエツクされるとはいつても(但し、人間のみの出入りは自由である。)、前記の料金体系と管理体制に従つてなされる料金の徴収の為にはそれも不可欠のものであつて、車の鍵も利用者が持ち、利用者の氏名や車の確認もなさない以上、車の保管のためのチエツクというには程遠いこと、その二名の係員の仕事も整理票へのパンチ打ち込みと料金徴収が主で、車の保管に従事すべき時間的余裕もないこと、料金体系そのものも前記のとおりであつて、高額なものとはいい難いこと、しかも、係員から利用者に交付される整理票の裏面(別紙2の1の2参照)には、損害不担保文言が記載されていたというのであるから、これらの点を総合勘案すれば、本件駐車場に駐車中の本件自動車の占有が被告にあつたこと、即ち、被告は本件自動車を自己の支配内において、その滅失・毀損を防いで原状を維持することを主たる目的にして被告が原告から本件自動車を受取つたと解するよりは、被告と原告との間には本件駐車楊内の一区画の駐車場所の貸借を主たる目的とする合意が成立し、それに基づいて原告は本件自動車を駐車させ、被告はこれを容認したにすぎないものと理解した方が、より実態に即したものといいうる。

尤も、本件駐車場に掲示されていた掲示板の写真であることに争いのない甲第三号証(昭和五九年九月二日撮影)及び甲第四号証の一ないし三(昭和六〇年二月四日撮影)によれば、原告主張のとおり、「本件駐車場の入口に掲示してある掲示板には、本件事故当時損害不担保文言は、記載されていなかつたのに、本件事故後被告において、右掲示板に損害不担保文言を記載した」ことが認められる点に若干の気がかりがないでもない。(証人山木政春は、これは、昭和五七年八月の駐車料金改訂時の掲示板書き替えに際しての看板業者の過誤による旨供述するのであり、その真否は別にしても、)しかしながら利用者が受取る整理票甲片裏面(別紙2の1の2参照)に損害不担保文言が明記されている以上、右掲示板への記載の有無は前記結論に消長をもたらすほどのものでもないと解される。

勿論、右のように解したとしても、それは有償寄託契約における受寄者の受寄物に対する善管注意義務はない、ということを意味するにすぎず、右契約関係に入つた被告において、付随義務として原告に対し、本件自動車の保全につき、一定程度の注意を尽くすべき信義則上の義務(この点につき、最高裁第三小法廷昭和五〇年二月二五日判決・民集二九巻二号一四三頁参照)を負うことまで否定するものではない。ただ本件においては、かかる観点からの義務違反の主張(最高裁第二小法廷昭和五六年二月一六日判決・民集三五巻一号五六頁参照)が原告においてなされているわけではないし、右義務違反を首肯するに足りる証拠があるわけでもないので、これ以上触れないこととする。

4  そうすると、有償寄託契約の成立に基づく善管注意義務の存在を前提とする原告の主張は肯認できないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由なきものとして棄却を免れない。よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 簑田孝行)

別紙1 熊本駅自動車整理場見取図

<省略>

別紙2の1の1

<省略>

別紙2の1の2 お知らせ

1 この整理場の取扱時間は、8時から22時までです。

2 料金は、入場してから20分までは無料です。

無料の20分を含み、1時間までは100円、1時間をこえ2時間までは300円、2時間をこえるときは、1時間までを増すごとに100円です。

3 駐車にあたつては、整理員の指示に従つて下さい。

4 車から離れる際は、必ず窓を閉じ鍵をかけて下さい。

5 当整理場において、盗難、その他の事故により、自動車その他の物件に損害を生じた場合、賠償の責任は負いません。

別紙2の2

<省略>

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